【予防医療】Nature医学誌発表:お酒は”第2のたばこ”だった!がん710万人の真犯人たち
■はじめに
がんは世界中で主要な死因の一つですが、実は予防可能ながんもあることをご存知でしょうか。2026年にNature Medicine誌に発表された国際的な大規模研究により、2022年に世界で新たに診断されたがんのうち、約4割が私たちの生活習慣を変えることで予防できる可能性があることが明らかになりました。特に注目すべきは、喫煙とアルコール摂取という、たった2つの生活習慣が、予防可能ながんの主要な原因となっていることです。本記事では、この最新研究の知見を詳しく解説し、私たちの健康を守るために何ができるのかを考えていきます。
■がん予防の可能性:全体像
世界的ながん負担の実態
国際がん研究機関(IARC)と世界保健機関(WHO)が2026年に発表した包括的研究によると、2022年に世界中で約1,870万人が新たにがんと診断されました。このうち驚くべきことに、約710万人(37.8%)のがんが、私たちがコントロールできる30種類の修正可能なリスク因子によって引き起こされていたことが判明しました。
この研究は185カ国、36種類のがんを対象とした史上最大規模の分析であり、たばこの喫煙、アルコール摂取、高い体格指数(BMI)、運動不足、無煙たばことアレカナッツ(噛みタバコ)の使用、授乳不足、大気汚染、紫外線、9種類の感染症、13種類の職業曝露という幅広いリスク因子を評価しました。これらの因子は全て、私たちの生活習慣の改善や環境対策、予防接種プログラムなどを通じて、その影響を減らすことが可能です。
性別による差も顕著で、女性では約270万人(29.7%)、男性では約430万人(45.4%)のがんが予防可能でした。男性の方が予防可能ながんの割合が高い理由は、主に喫煙率とアルコール摂取量の違いによるものです。地域別に見ると、予防可能ながんの割合は女性で24.6%(北アフリカ・西アジア)から38.2%(サハラ以南のアフリカ)、男性で28.1%(ラテンアメリカ・カリブ海)から57.2%(東アジア)まで大きく異なっており、地域の生活習慣や環境要因が深く関わっていることが分かります。
予防可能ながんの主要原因トップ3
研究によって明らかになった予防可能ながんの主要な原因は、以下の3つです。
第1位:喫煙(15.1%) 全世界で約333万人の新規がん症例が喫煙に起因していました。これは予防可能な単一のリスク因子としては最大の寄与度であり、特に肺がんをはじめ、15種類以上のがんと関連しています。男性では全新規がん症例の23.1%が喫煙によるものでしたが、女性では6.3%と性差が見られました。この差は、歴史的な喫煙率の違いを反映しています。
第2位:感染症(10.2%) ヘリコバクター・ピロリ菌、ヒトパピローマウイルス(HPV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)などの感染症が、約226万人のがん発症に関与していました。女性では11.5%と男性の9.1%より高く、主にHPVによる子宮頸がんの影響が大きいことが分かっています。感染症によるがんは、ワクチン接種や衛生環境の改善により予防可能です。
第3位:アルコール摂取(3.2%) アルコール摂取は約70万人のがん発症に関連しており、男性(4.6%)の方が女性(2.4%)より高い割合を示しました。アルコールは食道がん、肝臓がん、乳がん、大腸がんなど、多くのがんのリスク因子として確立されています。
■喫煙:依然として最大のがんリスク
喫煙によるがんの全体像
喫煙は世界中で最も重要な予防可能ながんリスク因子であり続けています。2022年のデータによると、全世界で約333万人の新規がん症例が喫煙に起因しており、これは全がん症例の15.1%に相当します。この数字は、治療法の進歩にもかかわらず、予防が依然としてがん対策の中心であることを強調しています。
喫煙によるがんは肺がんだけではありません。実際、喫煙は口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がん、腎臓がん、膀胱がん、子宮頸がん、急性骨髄性白血病など、15種類以上のがんと因果関係が確立されています。特に肺がんでは、男性の新規症例の約69.4%、女性の60.5%が喫煙に関連していました。
世界保健機関(WHO)のMPOWERイニシアチブなどの取り組みにより、多くの高所得国では喫煙率が減少傾向にあります。しかし、がんの発症には通常10年以上の潜伏期間があるため、喫煙率の減少が実際のがん発症率の低下として現れるまでには時間がかかります。このため、現在観察されているがん症例の多くは、過去の高い喫煙率を反映しているのです。
地域別・性別の喫煙によるがん負担
喫煙によるがん負担は、地域や性別によって大きく異なります。男性では126カ国で喫煙が最も重要ながんリスク因子となっていましたが、女性では38カ国にとどまりました。この性差は、歴史的な喫煙率の違いを反映しています。
高所得地域、特に北ヨーロッパ、北アメリカ、西ヨーロッパでは、女性の喫煙によるがん負担が高くなっています。北ヨーロッパでは全新規がん症例の12.5%、北アメリカでは12.2%、西ヨーロッパでは10.6%が女性の喫煙に起因していました。これらの地域では、1960年代から1970年代にかけて女性の喫煙率が上昇し、現在その影響が表れています。女性の喫煙率は世界平均で7.8%ですが、これらの高所得地域では18-19%と2倍以上の水準となっています。 一方、男性では東アジア、東ヨーロッパ、東南アジア、北アフリカ・西アジア、南ヨーロッパで特に喫煙によるがん負担が高く、これらの地域では全新規がん症例の20%以上が喫煙に関連していました。東アジアでは、男性の喫煙率が依然として高く、肺がんをはじめとする喫煙関連がんの主要な原因となっています。
喫煙とがんリスク:科学的エビデンス
喫煙とがんの関係は、数十年にわたる疫学研究によって確立されています。喫煙によるがんリスクは、喫煙量(1日あたりの本数)、喫煙期間、開始年齢によって累積的に増加します。例えば、1日1箱(20本)を30年間喫煙した場合、30パック・イヤー(pack-years)と計算され、肺がんリスクは非喫煙者の15-30倍に達することが報告されています。
重要なのは、禁煙によってこのリスクを大幅に減少させることができるという点です。禁煙後のがんリスク低下は、禁煙からの年数とともに進行します。例えば、肺がんのリスクは禁煙後5年で約39%減少し、10年で約50%減少することが示されています。ただし、長期喫煙者の場合、リスクが完全に非喫煙者レベルまで低下するには20-30年かかることもあります。
さらに注目すべきは、受動喫煙もがんリスクを高めるという事実です。非喫煙者が長期間にわたって受動喫煙に曝露されると、肺がんリスクが20-30%増加することが複数の研究で示されています。このため、公共の場での喫煙規制は、非喫煙者のがん予防においても重要な役割を果たしています。
■アルコール:「第2のたばこ」としてのがんリスク
アルコールによるがんの実態
アルコール摂取は、世界中で約70万人の新規がん症例を引き起こしており、全がん症例の3.2%を占めています。この数字は喫煙に次ぐ第3位のがんリスク因子であり、近年「第2のたばこ」として注目されています。男性では約4.6%、女性では2.4%のがんがアルコール摂取に関連していましたが、これは男性の方がアルコール消費量が多いことを反映しています。
アルコールは複数のメカニズムを通じてがんリスクを高めます。主なメカニズムとして、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドによるDNA損傷、エストロゲンなどのホルモンレベルの上昇、葉酸などの栄養素の吸収阻害、免疫機能の低下などが知られています。これらのメカニズムにより、アルコールは食道がん、肝臓がん、乳がん、大腸がん、口腔・咽頭がん、喉頭がんなど、少なくとも7種類のがんと因果関係が確立されています。
特に注目すべきは、食道扁平上皮がんに対するアルコールの影響です。この研究では、アルコールと食道扁平上皮がんの間に非線形の用量反応関係が認められ、少量の飲酒でもリスクが上昇することが示されました。また、大腸がんと膵臓がんについては、1日あたり20グラム以上、胃がんについては45グラム以上のアルコール摂取でリスクが有意に上昇することが報告されています。
地域別のアルコール関連がん負担
アルコールによるがん負担は、地域によって大きく異なります。男性では、東ヨーロッパで最もアルコール関連がん負担が高く、全新規がん症例の6.3%を占めていました。これに続いて、東アジア(5.7%)、サハラ以南のアフリカ(4.5%)、西ヨーロッパ(4.4%)、北ヨーロッパ(4.0%)となっています。
女性では、北アメリカで最も高く7.1%、次いで東ヨーロッパ(6.7%)、北アフリカ・西アジア(6.0%)となっていました。これらの地域差は、文化的なアルコール消費パターン、アルコール規制政策、社会経済的要因などが複雑に絡み合った結果を反映しています。 特筆すべきは、東アジアと東南アジアでのアルコール消費の増加傾向です。これらの地域では、経済発展に伴ってアルコール消費が増加しており、将来的にアルコール関連がんの負担がさらに増大する可能性が懸念されています。実際、2019年のモデル研究では、2030年までに世界のアルコール消費量がさらに増加すると予測されており、特に東南アジアと西太平洋地域での増加が顕著になると見込まれています。
アルコールと喫煙の相乗効果
アルコールと喫煙を同時に行うと、がんリスクが単純な足し算以上に増加する相乗効果が知られています。特に口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がんでは、この相乗効果が顕著です。台湾で実施された研究によると、アルコールと喫煙の両方を行う人の食道がんリスクは、どちらも行わない人と比べて大幅に上昇することが示されています。
この相乗効果のメカニズムとして、アルコールが口腔・咽頭粘膜の透過性を高め、たばこに含まれる発がん性物質の組織への浸透を促進することが考えられています。また、アルコール代謝産物であるアセトアルデヒドとたばこの発がん性物質が相互作用して、より強力な発がん作用を示す可能性も指摘されています。
このため、アルコールと喫煙の両方を行っている人が禁煙・節酒することで得られるがんリスク低減効果は、それぞれを個別にやめた場合の効果を単純に足し合わせたものより大きくなります。公衆衛生政策においても、たばこ規制とアルコール規制を統合的に推進することの重要性が強調されています。
■その他の重要なリスク因子
高いBMI(肥満・過体重)
高いBMI(体格指数)は、世界中で約54万人のがん症例に関連しており、全がん症例の2.4%を占めています。女性では3.4%、男性では1.5%と、女性の方が高い割合を示しました。これは、乳がんや子宮体がんなど、女性特有のがんが肥満と強く関連しているためです。
高BMIと関連するがんには、食道腺がん、大腸がん、乳がん(閉経後)、子宮体がん、腎臓がん、膵臓がん、肝臓がん、卵巣がんなどがあります。研究では、理論的な最小リスクBMI分布を平均22 kg/m²、標準偏差1として設定し、これを超えるBMIによるがんリスク増加を推定しました。
地域別に見ると、北アメリカで女性の高BMI関連がん負担が最も高く(7.1%)、次いで東ヨーロッパ(6.7%)、北アフリカ・西アジア(6.0%)となっています。これらの地域では、肥満率の上昇が公衆衛生上の重要な課題となっています。特に懸念されるのは、中低所得国での肥満率の急激な上昇です。経済発展に伴う食生活の変化、身体活動の減少、都市化などが複合的に作用し、肥満率が急増しています。
運動不足
運動不足は約27万人のがん症例に関連しており、全がん症例の1.2%を占めていました。WHO(世界保健機関)では、成人に対して週に150分以上の中等度の身体活動、または75分以上の激しい身体活動、あるいはそれらの組み合わせを推奨していますが、これを満たさない状態が運動不足と定義されています。
運動不足と関連するがんには、大腸がん、乳がん、子宮体がんがあります。女性では北アフリカ・西アジアで最も高く(3.2%)、次いで南中央アジア(2.6%)、東南アジア(1.9%)、サハラ以南のアフリカ(1.5%)となっていました。
身体活動ががんリスクを低減するメカニズムとして、インスリン感受性の改善、ホルモンレベルの調整、免疫機能の向上、炎症の軽減などが考えられています。特に大腸がんでは、身体活動が腸の蠕動運動を促進し、発がん性物質の腸内滞留時間を短縮することが保護的に働くと考えられています。
感染症
感染症は約226万人のがん症例に関連しており、全がん症例の10.2%を占める重要なリスク因子です。女性では11.5%、男性では9.1%と、女性の方が高い割合を示しました。これは主に、HPV(ヒトパピローマウイルス)による子宮頸がんの影響によるものです。
この研究で評価された感染症には、ヘリコバクター・ピロリ菌、HPV(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59型)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、エプスタイン・バーウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)、住血吸虫(Schistosoma haematobium)、ヒトT細胞白血病ウイルス、タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)、中国肝吸虫(Clonorchis sinensis)が含まれます。
地域別に見ると、女性では感染症関連がんの負担がサハラ以南のアフリカで最も高く(30.3%)、次いで南中央アジア(18.1%)、東南アジア(16.7%)となっていました。これらの地域では、HPVによる子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん、HBVやHCVによる肝臓がんが主要な問題となっています。
男性では、東南アジアで感染症関連がんの負担が最も高く(14.2%)、次いで東アジア(12.9%)、北アフリカ・西アジア(10.5%)となっていました。これらの地域では、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんとHBV・HCVによる肝臓がんが主な要因です。
大気汚染
大気汚染は約43万人のがん症例に関連しており、全がん症例の2.0%を占めていました。主に肺がんとの関連が知られており、PM2.5(微小粒子状物質)曝露が主要なリスク因子です。研究では、WHOの大気質ガイドライン値である10 µg/m³を基準レベルとして、これを超えるPM2.5曝露によるがんリスクを推定しました。
地域別に見ると、東アジアで大気汚染関連がんの負担が特に高く、女性の全新規がん症例の4.1%を占めていました。これは、この地域での高いPM2.5濃度を反映しています。男性では、北アフリカ・西アジアで大気汚染関連肺がんの約20%が大気汚染に起因していました。
大気汚染による健康影響は性別によって異なります。男性は建設業や製造業などの汚染物質に曝露されやすい産業で働くことが多く、屋外での職業曝露が高くなる傾向があります。一方、女性は特に低資源環境において、調理や暖房のためのバイオマス燃料の使用により、屋内での大気汚染曝露が高くなる傾向があります。
紫外線(UVR)
紫外線曝露は約24万人のがん症例に関連しており、全がん症例の1.1%を占めていました。主に皮膚黒色腫(メラノーマ)との関連が知られています。この研究では、紫外線曝露を直接測定する代わりに、最小曝露集団の黒色腫発生率を基準として、それを超える発生率を紫外線に起因するものと推定しました。
地域別に見ると、オセアニアで紫外線関連がんの負担が特に高く、女性の5.8%、男性の9.8%を占めていました。これは主にオーストラリアでの高い黒色腫発生率を反映しています。オーストラリアは世界で最も黒色腫発生率が高い国の一つであり、紫外線曝露が主要な予防可能がんとなっています。
北ヨーロッパでも紫外線関連がん負担が高く、女性で4.2%、男性で4.3%を占めていました。北アメリカでも男性で5.1%と高い割合を示しました。
紫外線による皮膚がんリスクは、特に小児期の過度な日光曝露と強く関連しています。日焼けの既往、特に水疱を伴う日焼けの経験は、後年の黒色腫リスクを大幅に高めることが知られています。効果的な予防策として、屋外活動のスケジュール調整、国レベルの日光安全政策の実施、日焼け止めの一貫した使用などが重要です。
職業曝露
職業曝露は約38万人のがん症例に関連しており、全がん症例の1.7%を占めていました。この研究で評価された職業曝露には、アスベスト、ヒ素、ベンゼン、ベリリウム、カドミウム、クロム、ディーゼル排気、ホルムアルデヒド、ニッケル、多環芳香族炭化水素、シリカ、硫酸、トリクロロエチレンの13種類が含まれます。
職業曝露によるがんは、主に中皮腫と肺がんで構成されています。男性では職業曝露関連がん負担が女性より高く、これは歴史的に男性が産業労働に従事する割合が高かったことを反映しています。しかし、女性の労働力参加が増加するにつれて、特に女性が多い職種での職業曝露による将来的ながん負担の増加が懸念されています。
地域別に見ると、女性ではオセアニア、西ヨーロッパ、南ヨーロッパ、北アメリカで職業曝露関連がん負担が比較的高くなっていました。これらの地域では、過去の産業発展期における職業曝露の影響が現在のがん発症として現れています。
■最新研究から見るがん予防の可能性
喫煙とがんリスクに関する最新知見
2021年にLancet誌に発表されたGlobal Burden of Disease(GBD)研究によると、世界中で喫煙たばこの使用と起因する疾患負担には顕著な時間的・空間的・人口統計学的パターンがあることが明らかになりました。1990年から2019年にかけて、204の国と地域における喫煙率と疾患負担を詳細に分析した結果、多くの高所得国では喫煙率が着実に減少している一方で、一部の中低所得国では依然として高い水準が維持されているか、むしろ増加傾向にあることが示されました。
この研究では、喫煙が20種類の喫煙関連がんのリスクを高めることが確認されています。特に重要な知見として、喫煙開始年齢と累積喫煙量(パック・イヤー)が、将来のがんリスクを決定する主要な因子であることが示されました。また、禁煙による健康利益は禁煙後すぐに始まり、時間とともに増大することも確認されています。
さらに、2015年にInternational Journal of Epidemiology誌に発表された研究では、米国における喫煙パターンの変化が、20種類の喫煙関連がんの発生リスクにどのように影響するかが詳細に分析されました。この研究では、NIH-AARPコホート研究の参加者である女性と男性のデータを用いて、喫煙パターンの変化とがんリスクの関係が検討されています。結果として、喫煙率の低下がすでに一部のがんの発生率減少に寄与していることが示されましたが、長い潜伏期間を持つがんについては、過去の高い喫煙率の影響が今後も続くことが予測されています。
アルコール消費と疾患負担の世界的動向
2020年にLancet Oncology誌に発表された研究では、2020年における世界のがん負担のうち、アルコール消費に起因する部分が推定されました。この包括的な分析により、世界中で約74万件のがんがアルコール消費に関連していることが明らかになりました。特に注目すべきは、少量から中等量の飲酒(1日あたり20グラム未満のアルコール)でも、約10万件のがんが発生していたという点です。
この研究では、アルコール関連がんは男性により多く見られ、食道がん、肝臓がん、乳がんが主要な症例を占めていました。地域別では、東アジアとヨーロッパでアルコール関連がんの割合が特に高いことが示されています。
さらに、2019年にLancet誌に発表されたモデリング研究では、1990年から2017年までの世界のアルコール曝露と、2030年までの予測が提示されました。この研究によると、世界全体のアルコール消費量は増加傾向にあり、特に東南アジアと西太平洋地域での増加が顕著であることが予測されています。これは、これらの地域における将来のアルコール関連がん負担の増加を示唆しています。
肥満とがんリスクの関連性
2015年にLancet Oncology誌に発表された研究では、2012年における世界のがん負担のうち、高いBMIに起因する部分が推定されました。この研究により、世界中で約48万件のがんが過体重および肥満に関連していることが明らかになりました。特に注目すべきは、高所得国における肥満関連がんの負担が大きいという点です。
肥満と関連するがんには、食道腺がん、大腸がん、閉経後乳がん、子宮体がん、腎臓がんなどが含まれます。この研究では、理論的な最小リスクBMI分布を平均21-23 kg/m²として設定し、これを超えるBMIによるがんリスク増加を推定しました。結果として、女性の方が男性よりも肥満関連がんの負担が大きいことが示されています。
さらに、2024年にLancet誌に発表されたGlobal Burden of Disease研究では、1990年から2022年にかけての世界的な低体重と肥満の傾向が、3,663件の人口代表研究から得られた2億2,200万人の小児、青少年、成人のデータに基づいて分析されました。この研究により、世界中で肥満率が急激に上昇しており、1990年以降、成人の肥満率が2倍以上に増加していることが明らかになりました。この傾向は、将来的な肥満関連がん負担のさらなる増加を示唆しています。
身体活動とがん予防
身体活動とがん予防の関係について、World Cancer Research Fund(WCRF)とAmerican Institute for Cancer Research(AICR)が2018年に発表した包括的レポートでは、身体活動が複数のがんリスクを低減することが強い証拠をもって示されています。特に、大腸がん、乳がん(閉経後)、子宮体がんについては、身体活動による予防効果が確実であると結論づけられています。
2009年にBritish Journal of Cancer誌に発表されたメタアナリシスでは、身体活動と大腸がんの関連が詳細に検討されました。この研究により、高いレベルの身体活動を行う人は、低いレベルの人と比べて大腸がんリスクが約24%低いことが示されました。また、身体活動のタイプ(職業、余暇、通勤など)によってリスク低減効果に違いがあることも明らかになっています。
2008年にBritish Journal of Sports Medicine誌に発表された研究では、身体活動と乳がんの関連について、活動のタイミング、タイプ、強度、および集団サブグループの影響が検討されました。この研究により、定期的な身体活動が乳がんリスクを低減することが確認され、特に閉経後女性において効果が顕著であることが示されています。
感染症とがんの関連
2020年にLancet Global Health誌に発表された研究では、2018年における世界のがん負担のうち、感染症に起因する部分が推定されました。この包括的な分析により、世界中で約220万件のがんが感染症に関連していることが明らかになりました。特にヘリコバクター・ピロリ菌、HPV、HBV、HCVの4つの感染症が、感染症関連がんの大部分を占めていました。
地域別では、サハラ以南のアフリカとアジアで感染症関連がんの負担が特に高いことが示されています。これは、これらの地域におけるHPVワクチン接種率の低さ、HBVワクチン出生時接種の実施率の低さ、ヘリコバクター・ピロリ菌の高い保有率などが影響しています。 2020年にNew England Journal of Medicine誌に発表された研究では、HPVワクチン接種と浸潤性子宮頸がんリスクの関連が、スウェーデンの全国的なデータを用いて検討されました。この研究により、HPVワクチン接種が浸潤性子宮頸がんのリスクを大幅に低減することが示されました。特に、17歳未満でワクチン接種を受けた女性では、リスクが88%低減するという顕著な効果が認められています。
包括的リスク評価の重要性
2022年にLancet誌に発表されたGlobal Burden of Disease研究では、2010年から2019年にかけての世界のがん負担のうち、リスク因子に起因する部分が推定されました。この研究では、本稿で紹介した研究とは異なり、がん死亡数とDALYs(障害調整生存年数)を主要アウトカムとして用いていますが、修正可能なリスク因子の重要性を再確認するものとなっています。
この研究により、世界中でがん死亡の約44%が修正可能なリスク因子に起因していることが明らかになりました。主要なリスク因子は、喫煙、アルコール消費、高BMI、食事要因、大気汚染などでした。ただし、この研究では感染症が含まれていないため、本稿で紹介した2026年のNature Medicine研究の方が、より包括的な評価を提供しています。
地域特異的なリスク評価
各地域の特性に応じたリスク評価も重要です。例えば、2020年にInternational Journal of Cancer誌に発表された研究では、東地中海地域における主要な生活習慣および環境リスク因子に起因するがんの割合が推定されました。この研究により、この地域では喫煙とヘリコバクター・ピロリ菌感染が主要なリスク因子であることが示されています。
また、2024年にCA: A Cancer Journal for Clinicians誌に発表された研究では、2019年における米国のがん症例および死亡のうち、潜在的に修正可能なリスク因子に起因する割合と数が推定されました。この研究により、米国では約40%のがん症例が修正可能なリスク因子に関連していることが明らかになりました。主要なリスク因子は、喫煙、過体重・肥満、アルコール消費、身体不活動、食事などでした。
■がん予防における包括的アプローチの必要性
これらの最新研究から明らかなように、がん予防には包括的なアプローチが必要です。単一のリスク因子に焦点を当てるのではなく、喫煙、アルコール消費、肥満、身体不活動、感染症など、複数のリスク因子を同時に対策することが重要です。
また、個人レベルの行動変容だけでなく、たばこ規制政策、アルコール規制、健康的な都市環境の整備、ワクチン接種プログラムの強化など、システムレベルでの介入が効果的であることも示されています。これらの政策介入は、個人の努力だけでは達成困難なリスク因子の削減を可能にし、社会全体のがん負担を大幅に軽減する可能性があります。
■FAQ(よくある質問)
Q1: アルコールは少量でもがんリスクを高めるのですか?
はい、最新の科学的証拠によると、アルコールは少量の摂取でもがんリスクを高めることが示されています。2020年にLancet Oncology誌に発表された研究では、1日あたり20グラム未満のアルコール摂取(ワイン約1杯、ビール約500ml相当)でも、世界中で約10万件のがんが発生していたことが明らかになりました。
特に、食道扁平上皮がんについては、少量の飲酒でもリスクが上昇する非線形の用量反応関係が認められています。World Cancer Research Fundの2018年レポートでも、アルコール摂取による乳がん、大腸がん、食道がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、肝臓がんのリスク増加は、摂取量が増えるほど高まることが確認されていますが、安全な最小量は設定されていません。
これは、「適度な飲酒は健康に良い」という従来の考え方を覆すものです。心血管疾患については少量のアルコール摂取が保護的に働く可能性が指摘されてきましたが、がんリスクに関しては閾値がなく、少量でもリスクがあると考えるべきです。特にがんの家族歴がある方、女性(乳がんリスクが懸念されるため)、若い方(生涯曝露期間が長くなるため)は、アルコール摂取について慎重に考慮する必要があります。
Q2: 禁煙すれば、すぐにがんリスクは下がりますか?
禁煙によるがんリスクの低下は、禁煙後すぐに始まりますが、完全に非喫煙者レベルまで下がるには長い時間がかかります。2015年にInternational Journal of Epidemiology誌に発表されたNIH-AARPコホート研究によると、禁煙後のがんリスク低下は、がんの種類や喫煙歴によって異なることが示されています。
肺がんの場合、禁煙後5年で約39%のリスク減少、10年で約50%のリスク減少が見られます。しかし、長期喫煙者の場合、リスクが完全に非喫煙者レベルまで低下するには20-30年かかることもあります。これは、喫煙によってすでに蓄積されたDNA損傷や前がん病変が、すぐには消失しないためです。
一方で、口腔・咽頭がんなどの一部のがんでは、禁煙後のリスク低下がより早く現れることが知られています。また、禁煙の健康利益はがん予防だけでなく、心血管疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスク低減にも及びます。これらの疾患については、禁煙後数年以内に顕著なリスク低下が見られます。
重要なのは、「禁煙するのに遅すぎることはない」という点です。たとえ長年喫煙していても、禁煙することで健康利益が得られます。50歳、60歳、さらには70歳で禁煙しても、余命の延長と生活の質の向上が期待できることが複数の研究で示されています。
Q3: BMIが正常範囲でも、運動不足だとがんリスクは高まりますか?
はい、BMIが正常範囲であっても、運動不足はがんリスクを高めることが科学的に証明されています。身体活動とBMIは、それぞれ独立したがんリスク因子として作用します。
2009年にBritish Journal of Cancer誌に発表されたメタアナリシスでは、高いレベルの身体活動を行う人は、低いレベルの人と比べて大腸がんリスクが約24%低いことが示されました。この効果は、BMIで調整した後も維持されており、身体活動そのものに予防効果があることを示しています。 2008年にBritish Journal of Sports Medicine誌に発表された研究でも、身体活動が乳がんリスクを低減することが確認されており、この効果もBMIとは独立していました。特に閉経後女性において、定期的な身体活動は乳がんリスクを約12-21%低減することが示されています。
身体活動ががんを予防するメカニズムとして、以下が考えられています:
- インスリン感受性の改善と血中インスリン濃度の低下
- 性ホルモンレベルの調整
- 免疫機能の向上
- 炎症マーカーの低減
- 腸の蠕動運動の促進(大腸がんの予防)
- エネルギーバランスの改善
WHOは、成人に対して週に150-300分の中等度の身体活動、または75-150分の激しい身体活動、あるいはそれらの組み合わせを推奨しています。これには、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、スポーツなどが含まれます。また、座りがちな時間を減らすことも重要で、長時間の座位は身体活動とは独立してがんリスクを高める可能性が指摘されています。
Q4: HPVワクチンは成人でも効果がありますか?
HPVワクチンは、主に性的活動開始前の若年層で最も効果的ですが、成人でも一定の効果が期待できることが研究で示されています。2020年にNew England Journal of Medicine誌に発表されたスウェーデンの研究では、17歳未満でワクチン接種を受けた女性で浸潤性子宮頸がんのリスクが88%低減したのに対し、17-30歳で接種を受けた女性でも53%のリスク低減が見られました。
成人でのワクチン効果が若年層より低い理由は、以下の通りです:
- 性的活動開始後は、すでにHPVに感染している可能性がある
- ワクチンは既存の感染や前がん病変を治療することはできない
- 免疫応答が若年層より弱い可能性がある
しかし、以下の理由から、成人でもワクチン接種を検討する価値があります:
- HPVには複数の型があり、ワクチンは9価ワクチンの場合、9種類のHPV型に対して予防効果を示す
- すべてのHPV型に既に感染しているとは限らない
- 未感染の型に対しては、成人でも高い予防効果が期待できる
現在、多くの国では11-12歳でのワクチン接種を推奨していますが、米国疾病管理予防センター(CDC)は、26歳までのすべての人にワクチン接種を推奨し、27-45歳の人については医師との相談の上で接種を検討することを勧めています。
重要なのは、HPVワクチン接種を受けても、定期的な子宮頸がん検診は継続する必要があるという点です。ワクチンはすべてのHPV型をカバーしているわけではなく、また既存の感染や前がん病変には効果がないため、検診による早期発見は依然として重要です。
Q5: がん予防のために最も優先すべき生活習慣の変更は何ですか?
がん予防において最も優先すべき生活習慣の変更は、個人の現在の状況によって異なりますが、科学的証拠に基づくと、以下の順序で優先度をつけることができます。
第1優先:禁煙 喫煙している場合、禁煙が最も重要です。2026年のNature Medicine研究によると、喫煙は世界中で約333万人のがん発症に関与しており、予防可能な単一のリスク因子としては最大の寄与度(15.1%)を示しています。禁煙は、肺がんだけでなく、15種類以上のがんリスクを低減します。
第2優先:節酒または禁酒 飲酒している場合、飲酒量を減らすか、できれば禁酒することが推奨されます。アルコールは約70万人のがん発症に関与しており(3.2%)、少量の摂取でもリスクが上昇することが示されています。特に喫煙とアルコールを両方行っている場合、相乗効果によりリスクがさらに高まるため、両方をやめることが理想的です。
第3優先:適正体重の維持と身体活動の増加 BMIが25 kg/m²を超える場合は減量を、運動不足の場合は身体活動を増やすことが重要です。世界中で約54万人のがんが高BMIに、約27万人のがんが運動不足に関連しています。WHOは、週に150-300分の中等度の身体活動を推奨しています。
第4優先:感染症予防 HPVワクチン、B型肝炎ワクチンの接種、定期的な子宮頸がん検診の受診が重要です。感染症は約226万人のがん発症に関与しており(10.2%)、特に発展途上国で大きな問題となっています。ヘリコバクター・ピロリ菌の検査と除菌も、胃がんリスクの高い地域では検討すべきです。
その他の重要な対策:
- 紫外線対策:日焼け止めの使用、帽子の着用、正午前後の直射日光を避ける
- 健康的な食事:野菜・果物の摂取増加、加工肉や赤肉の摂取制限
- 職業曝露の回避:作業場での適切な保護具の使用
2018年のWorld Cancer Research Fund報告書では、これらの生活習慣の変更を組み合わせることで、がんリスクを大幅に低減できることが示されています。重要なのは、完璧を目指すのではなく、実行可能な範囲で少しずつ改善していくことです。たとえ一つのリスク因子だけでも改善できれば、がんリスクは低下します。
■まとめ
2026年にNature Medicine誌に発表された包括的な研究により、世界中で新たに診断されるがんの約4割が、私たちの生活習慣を変えることで予防可能であることが明らかになりました。特に注目すべきは、喫煙とアルコール摂取という2つの生活習慣が、予防可能ながんの主要な原因となっているという事実です。
喫煙は依然として最大のがんリスク因子であり、世界中で約333万人のがん発症に関与しています。一方、アルコールは「第2のたばこ」として認識されるべき重要なリスク因子であり、少量の摂取でもがんリスクを高めることが科学的に証明されています。
その他にも、高BMI、運動不足、感染症、大気汚染、紫外線、職業曝露など、様々なリスク因子ががん発症に関与していることが示されました。これらのリスク因子の多くは、個人の行動変容だけでなく、社会全体での取り組みによって改善することが可能です。
がん予防には「完璧」を目指す必要はありません。禁煙、節酒、適正体重の維持、身体活動の増加、感染症予防など、実行可能な範囲で少しずつ改善していくことが大切です。たとえ一つのリスク因子だけでも改善できれば、がんリスクは確実に低下します。 まんかいメディカルクリニックでは、患者さん一人ひとりの状況に応じた、実践的なヘルスケアのアドバイスを提供しています。
「さんだ生活習慣病プログラム」
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生活習慣の改善についてご相談がある方は、お気軽にお問い合わせください。
参考文献
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記事監修者田場 隆介
医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長
医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。
