病気と健康の話

【生活習慣病】運動は「第二の治療」へ―食事と身体活動が変える、がん予防・再発抑制の最新エビデンス−

はじめに ― 「動くこと」「食べること」は、がんの運命を変えるか

「がんは体質と運で決まるもので、生活習慣ではどうにもならない」――そう感じておられる方は少なくありません。しかし近年の大規模研究は、この常識を大きく塗り替えつつあります。がんは確かに遺伝子の病気ですが、その発症・進行・そして治療後の再発には、日々の身体活動と食事が想像以上に深く関わっていることが、次々と明らかになってきました。
実際、140 万人以上を追跡した大規模解析(Moore SC ら、JAMA Internal Medicine、2016 年)では、余暇の身体活動が多い人は、大腸がん・乳がん・肝臓がんなど実に 13 種類のがんのリスクが有意に低いことが示されています。さらに 2025 年には、運動が大腸がんの再発と死亡そのものを減らすことを証明した画期的な臨床試験(CHALLENGE 試験、New EnglandJournal of Medicine)が発表され、「運動は予防だけでなく治療の一部である」という考え方が、世界の医療現場で現実のものとなりました。
本コラムでは、運動と食事ががんにどう関わるのかを、欧米の権威ある最新論文と、腸内細菌をめぐる Nature 系総説をもとに、できるだけ分かりやすく解説します。「何を、どれだけ、どのように」実践すればよいのか。読み終えたとき、明日からの一歩がきっと見えてくるはずです。

1.がんは「生活習慣で動く」病 ― 身体活動と食事の全体像

世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、がんの原因のうち、喫煙に次いで大きな割合を「食事・肥満・身体活動の不足」が占めると位置づけています。つまり、生まれ持った遺伝子だけでなく、私たちの選択によって変えられる部分が確かに存在するということです。
米国がん協会(American Cancer Society)は 2020 年、大規模な科学的レビューをもとに『がん予防のための食事と身体活動ガイドライン』を改訂しました(Rock CL ら、CA: A CancerJournal for Clinicians、2020 年)。その柱は明快です。すなわち、生涯を通じて健康的な体重を保つこと、週 150〜300 分の中強度(または 75〜150 分の高強度)の運動を行うこと、野菜・果物・全粒穀物を豊富にとること、そして加工肉・その他肉類・砂糖入り飲料・超加工食品・アルコールの摂取頻度を充分に控えることです。
重要なのは、これらが「なんとなく体に良い」という漠然とした話ではなく、数百万人規模の疫学データに裏打ちされた具体的な指針だという点です。前述の Moore らの解析(2016 年)でも、身体活動の多い人はがん全体のリスクが約 7%低いと報告されており、生活習慣が「がんの土壌」を確かに変えることを示しています。

2.運動は「第二の治療」へ ― 大腸がんの再発を減らした CHALLENGE
試験

2025 年、がん医療の常識を変える臨床試験の結果が報告されました。カナダを中心に行われた CHALLENGE 試験(Courneya KS、Booth CM ら、New England Journal of Medicine、2025年)です。これは、術後補助化学療法を終えた大腸がん患者 889 名を、構造化された運動プログラムを行う群と、健康教育のみを受ける群に無作為に振り分け、長期に追跡した大規模ランダム化比較試験です。
結果は明確でした。運動プログラム群では、5 年時点の無病生存率(再発や新たながんがなく生存している割合)が 80%と、健康教育群の 74%を上回り、再発や新規がんのリスクは 28%低下しました。さらに 8 年時点の全生存率は 90%対 83%で、死亡リスクは 37%も低かったのです。これは、多くの抗がん剤の「上乗せ効果」に匹敵する、あるいはそれを上回る数字です。注目すべきは、この運動が特別なものではなかったことです。理学療法士や運動指導者の支援を受けながら、ウォーキングなどの有酸素運動を週に合計 3〜4 時間程度、無理なく積み重ねる――その積み重ねが、薬に匹敵する効果を生みました。運動はもはや「余力があればやるもの」ではなく、治療計画に組み込むべき「処方」へと位置づけが変わりつつあります。

3.なぜ運動はがんに効くのか ― 筋肉が出す「マイオカイン」と免疫
の力

では、なぜ運動はがんに効くのでしょうか。かつては「痩せるから」「血糖が下がるから」といった間接的な説明が中心でした。しかし近年の研究は、運動そのものが体内で抗がん的な環境をつくることを明らかにしています。
鍵を握るのが、筋肉が収縮するときに分泌する「マイオカイン」と呼ばれる生理活性物質です(Hojman P ら、Cell Metabolism、2018 年)。運動によって放出されるインターロイキン6(IL-6)などのマイオカインは、がんを攻撃する免疫細胞である NK 細胞やキラーT 細胞を腫瘍の周囲に呼び寄せ、その働きを高めることが動物実験で示されています。運動をしたマウスでは、しなかったマウスに比べて腫瘍の増殖が明らかに抑えられていました。
さらに運動は、慢性的な炎症を鎮め、インスリンや成長因子(IGF-1)など、がん細胞の増殖を後押しするホルモンの過剰を抑えます。血流が増えることで、がん組織に酸素が行き渡り、免疫が働きやすい「熱い(hot)」環境に変わることも報告されています。運動は、体全体を「がんが育ちにくい状態」へと整える、いわば全身への働きかけなのです。

4.食事の「質」ががんリスクを分ける ― 食物繊維・全粒穀物の力

食事に目を移すと、まず確固たるエビデンスがあるのが「食物繊維」と「全粒穀物」です。世界の研究を統合した大規模メタ解析(Reynolds A ら、The Lancet、2019 年)は、食物繊維を多くとる人は、少ない人に比べて大腸がんによる死亡リスクが有意に低いことを示しました。1 日あたりの食物繊維を約 8g 増やすごとに、大腸がんをはじめとする複数の疾患リスクが段階的に下がるという、明快な用量反応関係が確認されています。
食物繊維がなぜ大腸がんを防ぐのか。そのメカニズムの中心にあるのが、腸内細菌です。食物繊維は腸内の善玉菌によって発酵され、「短鎖脂肪酸(酪酸など)」がつくられます。この酪酸には、腸の粘膜を守り、炎症を鎮め、がん化しかけた細胞のアポトーシス(自然死)を促す作用があることが分かっています。つまり、繊維を食べることは、腸内細菌を通じて腸を守ることでもあるのです。
具体的には、白米や白パンを玄米・雑穀米・全粒パンに置き換える、豆類・野菜・きのこ・海藻を毎食に取り入れる、といった無理のない工夫が有効です。特別なサプリメントではなく、日々の主食と副菜の「質」を少し上げることが、長期的ながんリスクの差につながります。

5.「超加工食品」という新しいリスク ― 便利さの代償

近年、世界のがん研究者が強く警鐘を鳴らしているのが「超加工食品(ultra-processedfood)」です。これは、スナック菓子、清涼飲料、インスタント麺、加工肉、菓子パンなど、工業的に加工され、添加物や乳化剤、糖・塩・脂肪を多く含む食品を指します。
英国バイオバンクの約20万人を追跡した大規模前向き研究(Chang K ら、eClinicalMedicine〈Lancet 姉妹誌〉、2023 年)では、超加工食品の摂取が多いほど、がん全体、とりわけ卵巣がんや脳腫瘍のリスクとがん死亡が高まることが示されました。食事全体に占める超加工食品の割合が 10%増えるごとに、がんの発症・死亡リスクが有意に上昇していたのです。                 さらに、欧州 9 か国・約 26 万人を対象とした EPIC 研究(Cordova R ら、The Lancet RegionalHealth – Europe、2023 年)は、超加工食品の多い食生活が、がんと心血管・代謝疾患を「同時に」抱えるリスク(多疾患併存)を高めることを明らかにしました。問題は単に高カロリーだからではなく、加工の過程で失われる繊維や、加えられる添加物・容器由来の物質が、腸内環境や炎症に影響する可能性が指摘されています。すべてを断つ必要はありませんが、「できるだけ素材に近い食品を選ぶ」意識が、確かなリスク低減につながります。

6.地中海食と「控えたい食品」 ― 肉類・加工肉のエビデンス

何を控えるかと同じくらい、「何を組み合わせて食べるか」も重要です。その好例が、野菜・果物・全粒穀物・豆類・オリーブオイル・魚を中心とする「地中海食」です。高齢者を対象とした最新のメタ解析(Giordano G ら、npj Aging、2024 年)では、地中海食の順守度が高い人は、がんの発症リスクが約 12%低いと報告されています。単一の食品ではなく、食事全体の「パターン」が守りになるという考え方です。
一方で、明確に「控えたい」とされているのが肉類と加工肉です。IARC(WHO 国際がん研究機関)の専門家作業部会は、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉を「ヒトに対して発がん性がある(グループ 1)」、牛・豚などを「おそらく発がん性がある(グループ 2A)」と分類しました(Bouvard V ら、The Lancet Oncology、2015 年)。加工肉を 1 日 50g 食べ続けると、大腸がんのリスクが約 18%上昇すると推計されています。
これは「肉を一切食べてはいけない」という意味ではありません。加工肉は日常的な常食を避け、赤肉は適量にとどめ、鶏肉・魚・豆・大豆製品などのたんぱく源をバランスよく組み合わせる――こうした地中海食的な発想が、現実的で続けやすい予防策となります。

7.腸内細菌という「隠れた主役」 ― 食事・運動とがん治療をつなぐ

運動と食事が、なぜこれほどがんに影響するのか。その多くの経路が最終的に行き着く先が「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)」です。2025 年に Nature Metabolism 誌に発表された総説(Nobels A ら、Nature Metabolism、2025 年)は、腸内細菌ががんの発生・進行だけでなく、抗がん剤や免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の効き方にまで関わることを、最新の知見とともに詳細にまとめています。
この総説によれば、ビフィズス菌や酪酸産生菌(Clostridium butyricum、Faecalibacteriumprausnitzii など)といった善玉菌は、短鎖脂肪酸を通じて腸の炎症を抑え、抗腫瘍免疫を高めます。逆に、食生活の乱れによって特定の悪玉菌が増えると、慢性炎症やがんの進行を後押しすることが示されています。さらに注目すべきは、食物繊維やプレバイオティクスといった「食事による腸内環境の改善」が、免疫療法の効果を高める有望な戦略として位置づけられている点です。
つまり、繊維をとる、運動する、加工食品を控えるといった日々の習慣は、腸内細菌という「隠れた主役」を介して、がんになりにくい体、そしてがん治療がよく効く体をつくることにつながります。生活習慣とがん治療は、腸を舞台に確かにつながっているのです。

おわりに ― 今日からできること、そして私たちにできること

ここまで見てきたように、運動と食事は、がんの予防から治療後の再発抑制まで、科学的な裏づけをもって関わっています。週 150 分の運動、食物繊維と全粒穀物、地中海食、そして超加工食品と加工肉を控える――一つひとつは決して特別なことではありません。しかし、それらの積み重ねが、CHALLENGE 試験が示したような、薬に匹敵する差を生み出します。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、続けられる一歩を今日から始めることです。すでにがんの治療を受けている方も、けっして遅くはありません。むしろ、運動と食事が最も力を発揮するのは、治療と並走するこの時期かもしれません。
まんかいメディカルクリニックでは、運動療法の専門的な指導に加え、CT・超音波装置による定期的な評価、生活習慣病の管理、栄養・食事のご相談まで、一人ひとりに合わせた「続けられる予防・再発抑制」を伴走型でサポートしています。日曜・祝日も診療を行い、救急救命士が常駐する体制で、皆さまの「動く・食べる」を安心して支えます。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

FAQ ― よくあるご質問

Q1. すでにがんと診断されました。今から運動を始めても意味はありますか?

はい、大きな意味があります。CHALLENGE 試験(Courneya ら、NEJM、2025 年)は、まさに大腸がんの手術・抗がん剤治療を終えた方を対象に、術後から運動を始めることで再発リスクが 28%、死亡リスクが 37%低下したことを示しました。運動が力を発揮するのは予防の段階だけではなく、治療後の「再発を防ぐ」段階でも同様です。ただし、開始時期や強度は病状によって異なりますので、必ず主治医と相談しながら、無理のない範囲で始めることをおすすめします。

Q2. がん予防には、どのくらいの運動をすればよいですか?

米国がん協会のガイドライン(Rock ら、CA Cancer J Clin、2020 年)は、週 150〜300 分の中強度運動(早歩き程度)、または 75〜150 分の高強度運動を推奨しています。1 日あたりに換算すると、早歩き 20〜40 分程度が目安です。まとめて行う必要はなく、通勤や買い
物での歩行、家事、階段の利用など、こまめな身体活動の積み重ねでも効果があります。
長時間座り続けることを避け、こまめに体を動かすことも大切です。

Q3. 「超加工食品」とは具体的に何ですか? すべてやめるべきでしょうか?

超加工食品とは、スナック菓子、清涼飲料、インスタント麺、菓子パン、ハム・ソーセージなどの加工肉など、工業的に加工され添加物や糖・塩・脂肪を多く含む食品を指します。英国バイオバンクの研究(Chang ら、eClinicalMedicine、2023 年)では、その摂取
が多いほどがんリスクが高まると報告されています。ただし、すべてを完全にやめる必要はありません。「できるだけ素材に近い食品を選ぶ」「加工肉の常食を避ける」といった置き換えを意識するだけでも、リスクの低減が期待できます。

Q4. サプリメントで食物繊維やビタミンを摂れば、同じ効果が得られますか?

残念ながら、同じとは言えません。がん予防効果が確認されているのは、あくまで「食品として」の食物繊維や野菜・果物です(Reynolds ら、Lancet、2019 年)。その効果は、繊維が腸内細菌に発酵されて短鎖脂肪酸を生み出す過程や、食品に含まれる多様な成分の相互作用によるものと考えられています。サプリメント単独で同等の効果を示した質の高い証拠は乏しく、むしろ一部の高用量サプリメントは害を及ぼす可能性も指摘されています。まずは日々の食事の質を高めることを基本にお考えください。

Q5. 抗がん剤治療中で体力が落ちています。それでも運動したほうがよいですか?

治療中こそ、可能な範囲での運動が心身の助けになります。運動には、がん治療に伴う倦怠感を和らげ、筋力や生活の質を保つ効果が数多くの研究で示されています。マイオカインを介して免疫を支える働き(Hojman ら、Cell Metabolism、2018 年)も期待されます。
ただし、体調や血液データによっては運動を控えるべき時期もあります。当院では、体力や治療状況に合わせた運動療法を専門的に調整しますので、自己判断で無理をせず、まずはご相談ください。

参考文献

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  2. Courneya KS, Booth CM, et al. (CHALLENGE Trial Investigators). Structured Exercise
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※本コラムは医学的情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を代替するものではありません。気
になる症状がある方は医療機関にご相談ください。

記事監修者田場 隆介

医療法人社団 青山会 まんかいメディカルクリニック 理事長

医療法人社団青山会代表。兵庫県三田市生まれ、三田小学校、三田学園中学校・同高等学校卒業。 1997(平成9)年岩手医科大学医学部卒業、町医者。聖路加国際病院、淀川キリスト教病院、日本赤十字社医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院を経て、2009(平成21)年医療法人社団青山会を継承。 2025年問題の主な舞台である地方の小都市で、少子高齢化時代の主役である子どもと高齢者のケアに取り組んでいる。

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